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2024.10.22
【シリーズ】郊外くらしラボ

【レポート】「始めてみる? 郊外の商店街で、小さな商い」

石川 歩(ライター)
 

郊外の駅から遠い商店街。その可能性を探る、まち歩きとトークイベントを行いました。題材となったのは、隈 研吾さんのデザインによるリノベーションで、東村山市の青葉町に誕生したカフェ「和國商店」です。

「駅から徒歩30分。東京郊外のシャッター商店街に、元タバコ屋をリノベーションした、隈 研吾さんデザインのカフェがオープン。仕掛け人は地元の板金職人」と聞いてワクワクするかた多いのでは?

今回は、世界的な建築家を巻き込んで、東村山市の青葉商店街に「和國商店」をオープンした、板金職人の内野友和さんとのトークイベントから、郊外の空き家の可能性を考えます。

イベントとカフェの情報はこちら
6/22イベント「始めてみる? 郊外の商店街で、小さな商い」

「和國商店」でのトークイベント。右から内野友和さん、聞き手の山岸と森田(東京R不動産)
郊外で駅から遠い商店街にある可能性

板金職人として働く内野さん。いわゆる屋根の工事をするのが板金屋さんです。青葉商店街の近くで生まれ育ち、おつかいでこの商店街に通っていたそう。

駅からバス便という不便さもありシャッター街化する地元を心配して「築52年の元タバコ屋を買っちゃった」のはコロナ禍のこと。

「コロナで地元に帰ってくる人が増えて、商店街を見る目が変わり、僕も地元への思いが高まりました。こんなに真っ直ぐ見通せる商店街はなかなかない。周りは多くの人が住んでいて商圏もあります。青葉商店街には魅力しか感じないです」

トークイベントの前に、地域を巡って魅力や可能性を探りました
駅からバス便と遠く、寂しくなってしまったけれど、可能性を感じる商店街
大勢の参加者に、おばあちゃんも興味津々

「僕たちが作っている工芸品で何かできたらいいな、ぐらいの気持ちで買いました」という元タバコ屋の物件。バス停近くの角地で、当初カフェをすることは考えていなかったそうです。

以前から青葉商店街に通っていたR不動産のメンバーは、この場所にポテンシャルを感じていました。

商店街は店が閉じて住宅になると、元のような商店街には戻りません。駅近の物件は建て替わっていきますが、青葉商店街は駅から遠いため、建物が商店の顔のまま残っている。そこに次の世代へつないでいける可能性を感じるのです。そして駅から離れた物件はチャレンジしやすい賃料も魅力です。

地域に支えられる店

「和國商店」開業までのプロセスにも、郊外ならではのメリットがありました。

スタッフ募集では「都会にあるようなカフェが近くにできたから応募した」という人が多く、ほとんどが地元の方だそう。また工事中にありがちな近所からの騒音クレームがなかったんだとか。その理由について、「ここは他の地域から移り住んで店を始めた人が多く、立ち上げの苦しみを知っている。挑戦する人を応援する空気感があるから」と内野さんは話します。

商店街の人たちにとって新店舗はライバルですが、青葉商店街には温かく見守ってくれる環境がある。新しく入ってくる人に「頑張って」と言える土壌に計りしれない価値を感じます。

青葉町は東村山市の「東村山プレイスメイキングマガジンvol.3」でも特集されている
地域への思いが、世界的建築家を動かす

さて、内野さんが「買っちゃった」元タバコ屋は、世界的建築家の隈 研吾さんがデザインをするという驚きの展開に。

ウチノ板金の工芸品「ORIZURU」をきっかけに隈さんと出会い商店街と板金の話をしたところ、内野さんの熱意が伝わり、デザイン監修を快諾してくれたそうです。

カフェ業態にしたのは「商店街に人を集めてコミュニティをつくりたい」という思いから。オープンから半年、それは少しずつ実を結んでいます。

「地域密着で運営しているので、地元の子どもたち、おじいちゃん、おばあちゃんがふらっと入ってきます。この場所に愛着を持つ人たちが集まって、体温のある空間に育っています」

内野さんと隈研吾さんをつなげた板金の工芸品「ORIZURU
真鍮のカウンターもウチノ板金の手づくり。自分たちの技術を生かすことで建築費の圧縮も
板金の柴犬も、ヤバい

今後やりたいことは? という参加者からの質問に内野さんは、「一人ひとりが頑張れることには限界があるけれど、仲間が増えたら変化を起こせるかもしれない。青葉商店街は空き店舗がたくさんあるから新しく建てなくていいし、費用を抑えて改装すれば若い人でもチャレンジしやすいはず。これから一緒にやってくれる人を増やして、商店街のシャッターを開けていきたい」と答えました。

R不動産では縁あってこの町に通い始め、地域の皆さんの地元愛を感じてきました。

ここは地元に貢献しようとする人も多い。日本中の郊外にある商店街や地域の人口が減っていく中で、これからは自分たちで自分の町をなんとかしようとする心意気がとても大切。そしてプロセスから完成後まで、まずは自分たちが楽しむ姿勢が素晴らしいと感じています。

郊外のシャッター街を寂しい風景と見るか、可能性の山と見るか? 後者と捉える内野さんとのトークイベントは、参加者と地元の人が混ざり合って賑やかなひとときになりました。

都会の外側にできた小さなカフェが生み出す物語は、「活躍の場は都会だけにあるわけではない」というメッセージを伝えているようです。

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