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2024.7.2
【シリーズ】郊外くらしラボ

簗田寺トークセッションVol.0 齋藤紘良さん(後編)

小谷実知世(doma)
 

お寺の副住職であり、東京R不動産が立ち上げる住宅地づくりや地域での活動のパートナーともいえる存在、齋藤紘良さんの頭の中を覗き込むトークセッション。後編は、気持ちのいい人が呼び寄せられ、いつの間にか一員になる理由について。

世界観はバラバラ、それでも一緒にいることができる

紘良さん:月に1度、「山の手入れ会」で境内の植物を扱っていると、人間のエゴを感じます。笹を刈って美しくなった、いい場所になったと人間は感じるけど、笹にとっては侵略されたわけです。そういうふうに視点を変えて考え続けないといけない。そうでないと自分を「善と悪」の善だと捉えてしまうと思うんです。世界観はバラバラなまま、それでも一緒にいることができる。それを確保していくのが、この場所の大きなテーマだと思っています。それを500年続けるとしたら、植物や鳥といった人間以外の存在も含めて、どう思いやりを持つか。それを地域の人たち、周りの人たちと感じ合い、大事にしたいと思っています。

R不動産:ずっと不思議に思っていることがあって。ここに集まっている人たち、呼び寄せられている人たちには、共通して気持ちがいい感覚があるんです。価値観が似ていたり、空気感が合っていたり。自然とそうなっているのか、何らかの仕掛けでそうなっているのかわからないんですけど。

紘良さん:あえて言語化するなら、「価値観を更新していける、更新しやすい場所」になるように、この場所を意識的につくっているといえると思います。例えば公園のようにしていないことも、その一つです。整備された美しさではなく、剥き出しのものや、朽ちていくものもなんとなく残している。そうかと思えば、ちょっと最近っぽいネオンを置いてみたり、お寺としての美的感覚はちゃんとあるよ、みたいなものもポイントで置いたりしている。価値観が混在するようにしているから、自分で価値を見出す余地があるし、自分で価値を見つけていく感覚になるんじゃないかという気がしています。

R不動産:つまり価値を提供するのではなく、来る人が参加しながら、自分で価値を見つけていく、ということですよね。

紘良さん:そうですね。「どうぞご自由にお過ごしください」としつつ、挨拶をしてもらったり、イベントの片付けを手伝ってもらったり。どんどん内側に入っていってくださいと。

R不動産:いつの間にか一員になっていく。ここにいると、その感覚はすごくありますね。

「いつの間にか一員になっている」が起こる場所

R不動産:お寺が続くべきだとしたら、その理由は何だと思いますか?

紘良さん:お寺は、物理的に特異な空間だと思っています。入っていいのかな? と思いつつ、入れちゃいそうだ、みたいな場所が地域にポツポツとあるのは、それだけでいろんな効果があると思うし、空間として残していくことは大事だと思うんです。目的なくフラッと入れる場所、それは悩みに来ていい場所だともいえます。もちろん公園で悩んでもいいかもしれないですけど、公園とはちょっと違うんですよね。まだ違いはうまく言語化できてないんですけど。

R不動産:明らかに違いがありますよね。公園は日常の時間や社会の中にある気持ちのいいオープンスペース。でも、ここに来た時の感覚はそれではないです。日常とは違うレイヤーに自分をシフトさせる感覚があります。

紘良さん:そうですね。例えば、誰が管理しているか分からない、人間の気配があまりない場所にいる時に、何に気を遣うかというと、近くにいる動物とか、自然現象だったりしませんか。蹴ってしまった石が転がっていく。そのときに大丈夫かな、と心配するとか。草を折っちゃったら、悪いかな? って思う。この悪いかなは、そこを管理している人にじゃなくて、空間に対してそう感じる。そういう感覚に近いかもしれない。見えない存在に対して敬意をはらう感覚が、公園とは違うと思います。

R不動産:お寺を人が集まる場所にするという発想も持っていましたか。

紘良さん:そうですね。でも、誰でも集まれる公園とは違い、思いやりを持った人が集まる、ピリッとした空気をもたらす場所でありたい。そういう場所が住まいの近くにあったらいいなと思う人たちが、引っ越してきたらうれしいです。

R不動産:そこには一つの姿を目指す感じはないですよね。それよりも自分はこの地域に住むとどうなるんだろうと思って、楽しめるとすごくいいんじゃないかと思います。例えば、フラッとお寺に来て、一声かけようと思ったけれど、誰も見当たらないなぁなんて思いながら、この図書室にある本を読む、みたいなことがあってもいいわけですよね。

紘良さん:全然いいです。もちろん、ここで宴会が始まっちゃったら「何やってるんですか」って声をかけます(笑)。でも、それも含めてコミュニケーションです。公共の場所じゃないし、「それちょっとやめて」ってお寺として言えるトーンは保っていきたいですが、誰が入ってきても、本を読んでいてもいいようにしています。

R不動産:ここにいると、いつの間にか知らない人と話していることがよくあります。山の手入れに参加して帰ってきたら、そこにいる人と自然と会話が始まって。そういうことがみんなに起きている。

紘良さん:誰かに紹介された人や、何かの縁でやってきた人が、今度は何かをやる側になっていく。「縁日に出店しない?」って呼ばれた人が、ここを気に入って、いつのまにか運営側になっていたり。

R不動産:いつの間にか一員になる。それは近所の人でもいいし、近所の人でなくてもいい。

紘良さん:宿坊のデザインをしてくれた設計士(設計事務所imaの小林 恭さん)は音楽が好きで、「爆音アンビエント」のイベントを開くことになったし、ここで展示会をした美大生は、自然と山の手入れ会にも参加している。訪れた人が、いつの間にかさまざまなことに関わり始める。そういうことが生まれる場所です。

前編はこちら
簗田寺トークセッションVol.0 齋藤紘良さん(前編)

簗田寺でのこれまでの活動などはこちらから
9/23イベント お寺の森と文化に浸る暮らし、つくります!
1/29トーク「753villageに学ぶ、暮らしの場のつくり方」
4/8トーク&まち歩き「まちとみどりとつながる家づくり」

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(写真:品田裕美

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