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2022.11.4
ニューニュータウン西尾久プロジェクト

ローカルに事業をするまち、荒川の魅力とは(後編)

森 若奈(三三社)
 

僕らR不動産がエリアリノベーションに取り組むまち荒川。ローカルに事業や活動をするフィールドとしての、地域のポテンシャルを掘り下げるインタビュー集。後編です。

地元の人にも望まれるかたち

荒川区で事業をする魅力を探るインタビュー。後半は、2021年3月、ギャラリーに、カフェ、シェアハウス、アトリエ機能を加えてリニューアルオープンした、「OGU MAG+」(オグマグプラス)から。

映画関係の仕事をしていた齊藤英子さんが、東尾久にギャラリーをオープンしたのは2010年のことでした。

築50年以上経つ「OGU MAG+」の建物。左側がカフェ、右側がギャラリー、2階はアーティストが滞在できるアトリエ兼シェアハウスになっている

「ロンドン留学中、小さなまちを含めて、どこにでもあったギャラリーに興味をもったんですよね。ここでギャラリーをはじめてみたら近所に芸大を卒業した人や、アートに興味がある人がぽつぽつと住んでいるのを知りました」

「私の祖父もそうですが、このあたりは隅田川で運んだ木材を使ってものづくりをする職人さんが多く暮らしていたまち。だから元職人さんもふらりと入ってきてくれます」(齊藤さん)

ギャラリーをはじめて10年が経った2020年頃、耐震強度の問題で建物の今後を考えることになった齊藤さん。建物に愛着があるため、できるかぎり味を残したいと、近所に暮らす3組の建築家に相談。その様子や建物の状態を公開し、地域の人とのワークショップも開催しました。

「今後どういう場所にしたらいいか、自分たちだけじゃなくて、地域の方たちにとっても望まれるかたちが一番だなと思ったんです。それに、いろんな人に関わってもらえるプロジェクトにできたらいいなって。映画制作をしているとき、個々で動いているけど、それが集まってものがつくられていく過程を見てきた影響だと思います」

カフェのカウンターには、齊藤さんのご主人、大貫智裕さんによる「焼菓子工房 アトリエエヌ」のお菓子が並ぶ
設計は荒川で活動する建築家、Atelier Asami Kazuhironmstudio architectsStudio GROSSが手掛けた

カフェができたことで、地域の人との距離がぐっと近づいたという齊藤さん。

「自分たちが暮らすまちが面白くなれば、と思っている人が多い気がします。お店どうしに特徴があるから競合していないし、ゆるく助け合っている感じがいいのかなと思います」

医療関係者の白衣をブルーに染めてリサイクルした制服

OGU MAG+

住所:東京都荒川区東尾久4-24-7
電話:080-5523-6604、03-3893-0868
営業時間:13:00~19:00
定休日:月~水(不定休)

ゆるやかにつながっている、動きやすさ

つづいて向かったのは、開店時間の15時前には行列ができるの人気スポット、銭湯「梅の湯」。26歳であとを継ぎ、2016年には約1年間お店を閉じて建て替えを行った、栗田尚史さんにお話を伺いました。

創業1951年の銭湯「梅の湯」三代目、栗田さん。背景の絵は建て替える前の銭湯の天井にあったもの

「昔は家にお風呂がなくて、銭湯が生活の一部だったんですよね。今も毎日来てくれる方もいますけど、特に若い方ほど、そうじゃないものになっている。だから週1回でもよくて、どうしたら週1回来てもらえるか、週2回にしてもらうにはどうしたらいいかを考えるようにしています」

隣の建物で暑い中DIYをしている人たちを見て「風呂でも入りに来てください」と、お風呂の券を渡しに行ったという栗田さん。無理なく支え合う荒川の日常が垣間見える

お風呂もロビーも天井が高く、自宅では味わえない開放的な空間が広がる「梅の湯」。老若男女がくつろぐロビーでは、クラフトビールやアイスクリームの販売、本の貸し出しコーナーもあり、時折、寄席やヨガなどのイベントも開催されています。

「日々の生活のなかで、こんなものがあったら面白いんじゃないか、ということをやっている感じですね。これはよかったな、これはいまいちだったな、の繰り返しです」

「お風呂上がりに食べたいアイス」を投票する手作り投票箱。銭湯を訪れる人が気軽に参加でき、みんなの意見が視覚的にわかる仕組み

銭湯のなかだけでなく、人やまちに対しても、自分ができることをしているだけと語る栗田さんの存在は、新たに荒川区で事業をはじめようとしている人にとって、大きいものとなっています。

「この狭い荒川で、それぞれのフィールドややり方、得意とするものがあって、それぞれちゃんとやれている。それでいいような気がしています。まとめる必要がないというか。ゆるやかにつながっている動きやすさ、自由さがあるのがいいのかなと思っています」

梅の湯

住所:東京都荒川区西尾久4-13-2
電話:03-3893-1695
営業時間:15:00~25:00
定休日:月

まちに住む人の健康を支える食卓

人々の生活を支え、東京に残る唯一の都電である荒川線。その荒川線沿いの、早稲田、雑司が谷、東尾久三丁目で営業しているのが、ご飯屋さん「都電テーブル」です。

運営する「都電家守舎」の代表、青木 純さんにお話を聞きました。豊島区で生まれ育ち、社会人になって家業を継ぐことになり、実家に帰ってきた青木さんは、周辺を見渡して、個人店が減り幹線道路沿いにチェーン店が増えていることに気がついたといいます。

2022年8月にオープンしたばかりの、都電荒川線・東尾久三丁目駅近くの「都電テーブル 東尾久三丁目店」。さっそく土日には行列ができる人気店となっている

「実家は、僕が小学6年生までまちの洋食屋さんだったんです。パートのおばちゃんがいて、地域の人が通ってくれて、地域の外食文化を見て育った。その原体験から、まちにおいしい食卓があるって幸せなことだなと思っていました。賃貸住宅の大家さんとして、このまちを選んでくれる住人さんたちの健康を支えられたらと思って、飲食店をはじめることにしました」

明日の活力になるような、素朴でおいしい、白いご飯とお味噌汁を基本とした定食。メニューには、生産者さんの情報も記載され、産地とのつながりも大切にしている

都電テーブルは、子どもも安心しておいしく食べられる素材を使い、家族からちょっと一杯の一人客まで、いろんなお客さんが訪れます。

「お客さんとの関係性ができてくると、食べたあとに食器を下げてくれたり、お客さんがお客さんを注意してくれたり。そういうなかで地域の人と一緒に育てていく飲食店の可能性を感じています」

まだまだ飲食店にはできることがある、そう思った青木さんは、荒川区内の初の店舗として「都電テーブル 東尾久三丁目」をオープン。

「僕らが一歩踏み出すことで、まわりの人も挑戦しやすくなったらいいなという思いもあります。地元意識が強くて、それでいて、それぞれが生きやすくいようよっていう雰囲気が、荒川のよさだなと思います」

窓側の席からは、都電荒川線の車両を眺められる

都電テーブル東尾久三丁目

住所:東京都荒川区東尾久3-11-17
電話:03-6458-2292
営業時間:11:30~15:00
定休日:不定休

前編はこちら
ローカルに事業をするまち、荒川の魅力とは(前編)

(写真:加藤雄太

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