公共空間活用の仕組みとデザインを紐解いた『公共R不動産のプロジェクトスタディ』から2年、次に東京R不動産のディレクター馬場正尊が注目したのは「テンポラリー」な構造物でした。不確定な時代、「いきなり本格的な建築をつくれないなら、まず小さく早く安く実験しよう!」というマインドで、さまざまなスケールから、都市を軽やかに使う事例、制度、アイデアをまとめた書籍を出版します(予約受付中)。
民主的な建築は可能か? 新著『テンポラリーアーキテクチャー/仮設建築と社会実験』で問いたかったこと
12月に発刊する『テンポラリーアーキテクチャー/仮設建築と社会実験』を書き始めたのは2年前。オリンピックで改造が進む東京の風景の変化に、小さな組織である僕らや、個人がコミットする機会があまりにないことに違和感を覚えたのがきっかけだった。
SNSなどを通して個人が直接社会に関わる可能性は増したように思えるが、こと都市計画においては巨大資本と個人との乖離は深まっているようにさえ思えた。あらゆるオリンピック関連施設や再開発は、いつの間にかにでき上がってゆく。いろんな都市政策に関わっている僕でもそう感じるのだから、市民から見るとその印象はさらに強いのではないだろうか。
この本は、この状況へのアンチテーゼとして、オリンピックの閉会式の翌日に出版する予定だった。巨大さではなく小ささを、集中ではなく分散を、大資本ではなく個人を、固定よりも可変性を武器にした建築の集積で、都市の風景を変えて行く方法もあることを示そうと思っていた。
周知のように、2020年開催のオリンピックはいったん流れてしまい、出版のタイミングは失われがっかりしていた。
しかし今、コロナ禍の公園や道路で起こっている出来事を見ていると、この本が新たな意味を持ち始めたかもしれないと思うようになった。
しばらく家の中に閉じ込められた僕らは、改めて都市のオープンスペースの大切さを認識した。風や太陽を求め積極的に屋外に出ると、公園や川沿いの遊歩道にいい感じの距離感で人々が寛いでいる。賑やかすぎず、かといって寂しげでもない。なんとなく調和がとれている。
敷物を広げ、小さな領域を確保しながら読書をする人。折りたたみ椅子を持ち込んで語り合うカップル。周りに気を使いながら子どもとキャッチボールをする親子。みんなちょっとした道具や工夫で自分たちの居場所をつくっている。パブリックの中に、小さなプライベートが内包され、適度な距離感で点在している。
そんな風景を眺めながら、ふと感じた。これが次の時代の都市の理想を示すワンシーンなのではないか。同じ空の下、それぞれが小さく仮設的な領域をつくり、自由気ままに、自分たちの時間と空間を味わっている、穏やかで民主的な風景。テンポラリーアーキテクチャーが本質的に問いかけたかったのは、このことだったはずだ。
今後、否応なく経済状態はひっ迫するだろう。オリンピックへの投資回収はかなり困難に思えるし、コロナ禍の経済的ダメージは予測すらできない。もちろん、なんとかそれを乗り越えていかなければならないが。
不確実な時代に対する現実的な方法としての仮設建築や社会実験。安く軽く早く、そして楽しく都市の風景を変えていこうじゃないの、そんな気分だ。
開き直って、まずやってみる。そして社会の反応を見る、間違いがあれば修正する、もっと良い方法があればすかさず組み合わせる、それを楽しくスピーディに繰り返す。そんな実験の先にしか僕らのリアルな未来の風景は見えてこない。
安定的かもしれないが、誰かによって与えられた都市なんてつまらない。時代の変わり目は、いつも不確実で不安定。試行錯誤を繰り返しながら、少しずつつくってゆく。そのプロセスに自分も関わっている実感がある都市で暮らしたい。テンポラリーアーキテクチャーは、都市を自分たちのものにするための道具であり、手段である。
『テンポラリーアーキテクチャー/仮設建築と社会実験』
編著:OpenA・公共R不動産
著者:馬場正尊、加藤優一、瀧下まり、菊地純平、木下まりこ
出版社:学芸出版社
総頁:224頁
判型:四六判
定価:本体2,300円+税
ISBN:978-4-7615-2762-4
発売日:2020年12月20日
装丁:高木裕次、鈴木麻佑子
『テンポラリーアーキテクチャー:仮設建築と社会実験』刊行記念 馬場正尊×吉村靖孝×加藤優一トークイベント
日時:2020年12月15日(火) 20:00~21:30
会場:オンライン
参加方法:以下のリンク先にてご確認ください
申し込みページ(Peatixサイト)