横綱にトキメキを

以前に「横綱の貫禄」というタイトルで昭和39年築の貫禄たっぷりのヴィンテージマンションをお手伝いさせていただきました。その時は募集記事の文末に、リフォーム前の状態で残っていたこの横綱級のマンションに素敵な化粧まわしをつけてください！的なことを書いたことを覚えています。

それからの展開はというと、東の横綱と言える設計事務所、ブルースタジオにてリノベーションが行われました。そのリノベーションが化粧まわしという言葉に対して、いい意味で逆をいっていて、決まり手としては「逆取ったり」でやられた感じです。どうにも表現が相撲から離れません。なんていうか、ハッとトキメキを感じる瞬間がたくさんあるのです。

ちょっと興奮しすぎましたね。何を言いたいかというと、建築において化粧とは装飾を意味することがあって、そうした表現で魅力的な空間が作られる可能性を感じていたのですが、今回のリノベーションではもっと建築的な空間の構成や細部にこだわった納まりで魅了されたのです。

住み手のイメージや猫との暮らしを考えた結果もあるのかもしれませんが、あらゆる空間が完全に区切られておらず、緩やかにつながっているため、約50㎡のサイズを最大限に生かしてくれています。

リビングを中心にキッチンやベッドルームとの壁は天井まで達しておらず、隙間を設けて奥まで続く空間の連続性を感じます。そうかと思えば床を上げて天井は下げて収納の壁を作って、キュッと落ち着く篭れる空間がベッドルーム。水平方向には抜けているのに妙に落ち着くという化粧ではできない建築の力が冴え渡っています。しかも小上がりになったベッドルームの床下は収納になっています。

バルコニーに面したサンルームを中心としたサニタリー空間にもトキメキます。ベッドから起きてすぐに顔が洗える洗面台！そうかと思えばその裏にはバスタブが！？

さらにはタイルもガラスタイルにサイザルの床、そして土間。もうこの空間全体がバスルーム！？さらにそのままバルコニーにも出れる！？夏は水着で過ごせばいいのでしょうか？ここはどこ？新宿！？うそだろー！

こうなると、一体どう暮らしたらいいのか分からなくなりますが、その奥にしっかりシャワーブースがあってホッとします。トイレはオープンなのであしからず（カーテンはできます）。

かなりぶっ飛んだサニタリーでしたが、キッチンはとても大人っぽいです。カウンターも含めてコの字型のキッチンは二人暮らしにはいいのかもしれません。ヴィンテージマンション特有の横長連続窓があるおかげで、とても様になります。

そして驚くなかれ。この横長連続窓の高さに合わせて、キッチン収納の高さやリビングの梁背を調整しているのです。リビングではこの梁下にスクリーンも仕込んでいたりして、もうトキメキが止みません。

ちなみに、マンションの共有部も素敵です。何年経っても変わらない姿でいてくれて、感謝感激です。エントランスに入った瞬間に背筋がピンとなりました。