時をまとう邸宅

目黒川沿いに佇む建築家、廣田豊設計の「西五反田の家」。

コンクリート打ち放しの外壁が生み出す、まるで静かに守られているかのような気品と重厚さ。その佇まいは、外から全貌が見えないため、扉を開けて足を踏み入れた瞬間、まるで秘密の空間に招かれたような感覚に包まれます。

この戸建てが完成したのは約35年前。もとは昭和初期、目黒川の水がまだ澄んでいた時代に立てられた、木造の和洋折衷住宅が佇んでいた思い出の場所。ていねいに手を加えられながらも愛情を持って守り続けられ、長い時を重ねてきました。

住まいの歴史への敬意と温かな思いを尊重し、保存可能な要素を配慮して、建て替えの計画が静かに進められていきました。

地形を生かし、内部と外部の空間がゆるやかにつながり合うよう、建築家によって設計されています。居間につながる庭園には既存の樹木がていねいに保存され、かつての庭の情景を大切に受け継いでいます。

大きな玄関から続くのは、庭に面したさわやかな光が差し込む応接室。その奥に広がるヘリンボーン状に敷き詰められたフローリングと、壁天井が漆喰（しっくい）で仕上げられた美しくも巨大な居間。ワイドな窓からは、四季折々の絵を楽しませてくれる庭園を一望。ここで過ごす時間は、まさに「おもてなし」の極み。数十人規模の食事会にも対応できる回遊性のある設計で、来客に気づかれずにケータリングがこなせる導線が考えられています。

居間と食堂がある1階は、敷地と建物の最大の広がりを感じられる空間でゆったりとした開放感が魅力です。天井高3.7mの食堂から見渡せるテラスは、内と外の境界を曖昧にする工夫がされており、まるで内部空間の延長のように広がります。

再利用された寄木細工の床や、ステンドグラスや網代などの希少な建具、照明器具など、かつての住まいの美しい面影が随所にちりばめられた玄関室を抜け、高さ5mに及ぶ吹き抜けの階段ホールを上がり、寝室のある2階へ。

図面上では小分けに見える各居室も、実際に足を踏み入れてみると、落ち着きと広がりが感じられる空間です。いずれもぐるりと回遊性のあるつくりになっており、天井が高く、どの部屋にも庭園や中庭を望む窓が効果的に配置されています。また、2階には小さなキッチンが設けられ、このフロアだけでも生活が完結するように工夫されています。

そして、見逃せないのが和風旅館を思わせる細やかな設えのトイレや、広々とした浴室。ひとつは大きな窓から緑を望み、もうひとつの浴室には高い天井から差し込むトップライトが。こうしたぜいたくな光の取り入れ方にも、設計の工夫が感じられます。

3階部分は住居区画となっており、一棟貸しではありませんが、入口や導線は完全に分かれているため、プライベート感もしっかりと保たれています。

住居としても、事務所としても。はたまた一日一組限定のレストランや、ギャラリー兼住居等としても面白そう。

旧家からの風合いがところどころに息づいた、ぜいたくな住空間。この土地の歴史を感じながら、新しい暮らしや、仕事場の情景が頭に浮かんできた方に、ぜひ。

※事務所、店舗利用の場合、賃料等に別途消費税（敷金、償却などの賃貸条件が変わる可能性があります）
※店舗は業種により相談（重飲食店舗、騒音・振動・臭気を発する業種、不特定多数の出入りが多い業種は不可）