100年先のラブレター

拝啓、100年後の君へ。名前も顔も好きな食べ物さえも知らないけれど、この辻堂という地で暮らしている君へ。今そちらの風景はどんな風ですか。田畑が広がり樹々がすくすくと成長し、蛙と蝉の合唱や鳥のさえずりは聴こえていますか。

そんな未来の町の姿を想い描きながら、小さな集落をつくって住人と一緒に育てていく。この場所は、辻堂に暮らす未来の誰かに宛てたオーナーからのラブレターなんじゃないかと思うのです。

藤沢市辻堂といえば、いわゆる湘南エリアでも人気の高い移住先。駅前には大型ショッピングセンターのテラスモール湘南があり、蔦屋書店の運営する湘南T-SITE、南側には辻堂海岸、辻堂海浜公園などなど、平日や休日を過ごすのに事欠かないスポットがたくさんあります。駅前には建築中の高層マンションまで。

一般的な視点で見れば、都心から少し離れた自然が近い移住先としては全く申し分ありません。でも、開発で森が消え、畑が住宅に変わり、広い土地はマンションになっていくという、ここ数十年の変遷によって、他の町と変わらない風景になってしまいつつあることに、この町で育ったオーナーは寂しさと危機感を感じていたそうです。

昔の辻堂は畑が広がり海が近いこともあって、住民の多くが、自分たちで育てた野菜や漁で獲った季節の旬のモノを食す半農半漁スタイルでした。地産地消の重要性が叫ばれる前から、当たり前にそこにあったいのちと向き合う暮らしの営み。そんな風景を未来に残していきたいという想いから、オーナーの集落づくりプロジェクトはスタートしました。

辻堂駅から南に徒歩13分。住宅街の中に突如として現れる空間には、常緑樹や落葉樹が植栽され、あまり聞き慣れない「微生物舗装」されたというふかふかした地面が広がり、その中心に無垢材で建てられた3区画の長屋があります。

今回ご紹介するのは第二期の1区画（全3区画ですが2区画は成約済）。第一期はここから徒歩3分にある計9区画（オーナーも住んでいます）の集落のような場所で、平屋を改装したコモンスペースも。共有の屋外スペースでは、住人が寛いだり子供たち同士が遊ぶ元気な声が聞こえてきたり、庭や畑の手入れをしたり、ときには住人が集まってきて夕食会を開催したりしています。

もちろん第二期の入居者もコモンスペースの利用は可能ですし、夕食会やイベントの参加も大歓迎です。ぜひ第一期の住人とも交流を深めていただければ。辻堂で楽しく暮らすヒントを教えてくれるかもしれません。

神奈川県産の無垢材をふんだんに使った長屋は、北東から南西に土間が伸びて通り抜けできるような設計に。土間にはキッチンがあり、畑で収穫してきた野菜や釣った魚をすぐに調理したり、ふらっと来た人と料理をつまみながら会話が弾みそうな空間です。遊び盛りの子供達が、南北の両面に配置された庭と家の中をぐるぐる走り回り、それを大人が追いかけて回るという楽しそうな光景も目に浮かびます。

1階は居間と個室を引き戸で仕切る事はできますが、欄間部分はオープンになっているので隣の気配や料理の匂いもしっかりと伝わってきます。ワイドな掃き出し窓が南北に設置されていて、両方の窓を開け放てば部屋中に風が吹き抜けます。隣の区画との間には柵もありません。家の内にも外にも開いたつながり重視の設計となっています。

室内は外気を利用した「びおソーラー」システムで夏はひんやりした空気を、冬は暖かい空気を床下に取り込んで快適性を高める工夫も。

共有の屋外スペースには、伐採予定だった樹木をレスキューして植栽した広葉樹が青々と生い繁り、空間を優しく包み込んでくれる緑のベールに。5年後、10年後、さらに先の彼らの成長が楽しみです。ちなみにB区画とC区画の間には共有の収納部屋まで。庭いじりの道具やアウトドアグッズ、BBQセットなどみんなで使うグッズ置き場として活用したいですね。

生き物にも人間にも環境にも優しい場所にしたいというオーナーの想いが詰まっているから、パーマカルチャーやサーキュラーエコノミー、そしてコミュニティデザインという言葉を知らなくても、なんだか気持ちいいよね、と納得してしまう、そんな空間でした。

単に辻堂エリアに移住したいという方よりは、新しい暮らし方にチャレンジしてみたい、地域と繋がりたい、何かやりたいけどモヤモヤしてどうしたらいいかわからない、そんな人に向いているかもしれません。暮らしと向き合うきっかけになれば。