今、日本の賃貸の自由度が変わろうとしている。
R不動産では住み手にとっても、貸す側にとってもハッピーな「カスタマイズ賃貸」を模索してきた。そのいくつかの事例を紹介してみたい。
山形で行われた実験
最初は山形R不動産の小さな学生向けのアパート。
アート系の学生が多く、自宅で制作活動を行いたいというニーズは多かった。しかし賃貸にそんな物件はほぼない。そこで床と壁をぐるりと構造用のラーチ合板で囲んでしまい、釘を打とうが、絵の具が飛び散ろうがOK、の空間にした。引っ越すときは、タタミの表替えと同じ要領で、くるっと裏表をひっくり返す。そうすることで同じ材料で二度の原状復帰が可能になる。オーナーさんにとっては、壁紙を張り替えるのと負担はあまりかわらない。
壁には自転車ラックなどを設置したり、鉄のパイプで洋服掛けをつくったりと、いろいろ遊んでみた。空間を使う自由度は格段に高まる。
この物件はすぐに人気となって、今は建築・環境デザイン学科の学生が住んでいる。
山形R不動産コラム『バリューアップ原状回復プロジェクト』
空き物件再生中 第75話 新しいプロジェクト
空き物件再生中 第76話 オープンハウスの報告。
大阪での事例。中古マンションをカスタマイズOKに
次に実験したのは80年代に建った賃貸マンションをカスタマイズOKに変えること。LDKだった空間を大胆にスケルトンにして、そこに「手掛かりの壁」と呼ばれる、L字型の木の壁を立てた。ゾーニングするための壁というよりは、機能性としては家具に近い。「手掛かりの壁」は、テーブルや収納家具をレイアウトするガイドになったり、棚をつけたり、空間の使い方のイメージをかき立てる。
東京で始まった「フリーウォール」
最近、団地の新しい貸し方として実験しているのが「カスタマイズ賃貸」。
ここでは「フリーウォール」と呼ばれる自由に遊んでいい壁を一面つくった。これはメインの壁1面に配置してあり、そのままの風合いで楽しむというより、部屋の主役となる壁面を自分でデザインしてみよう、という意図を込めてある。この壁に関しては原状回復の義務もない。
もちろんそれでもデザインすることは簡単なことではないので、その道具立ても用意してある。入居者に配られるR不動産toolboxがつくったカタログには、カスタマイズのノウハウからお薦めの材料までが網羅されている。
R不動産toolbox
カスタマイズURプロジェクト
西大島プロジェクト
少しずつチャレンジを続けている「カスタマイズ賃貸」。今まではリノベーション物件でその可能性を模索して来た。
この西大島プロジェクトは、新築賃貸でそれを積極的に導入した事例だ。
細長い空間の特徴を活かして、片面の壁全面を大きな「フリーウォール」にした。新築マンションのきれいな仕上がりのなかに、ラフな木の質感がアクセントのようにすっと入っている。
この物件は駅からすぐなので、住居としてだけでなく、仕事場やアトリエとして捉えてもいい。柔らかいキャンバス生地のカーテンで空間を分けているので、プライバシーと仕事場を区切ることもできる。ネイルなどのサロンと居住を合わせた使い方もあるかもしれない。
フリーウォールや布の間仕切りで、空間を使い手の都合に合わせてさまざまなゾーニングや表情に変化できる。
使い手の都合で、ほぼ、どんなモノでも取り付け可能。空間の機能はいかようにも変えることができる。
日本の賃貸物件では長年、壁にビス一本打つことでさえ躊躇しなければならなかった。住み手は不自由だと思いながらもそれを不動産の常識としてあきらめてきた。物件を供給する側も、いったんカスタマイズをOKにしてしまうと、物件がどうなって戻ってくるのか不安だ。だからこの常識は貸手にとっては都合のいいまま放置されてきた。それが日本の賃貸物件が、なんとなく画一的で自由の幅を制限してきた大きな理由だと思う。
僕たちはその流れをちょっと変えたいと思っている。