神田淡路町。
JR神田駅と直行する靖国通りを一本入ると、そこには細い路地が入り込んでいるエリアがある。ふらふらと歩くと、鳥すきの「ぼたん」や、「やぶそば」など明治から続く老舗の銘店が、まるで喧噪を避けて、街に埋もれるかのようにたたずんでいる。東京の、まさにど真ん中に残っている貴重な一角だ。
かんだやぶそば。背後のビルとのコントラストが、なんとも今の神田を象徴している。
でも、そういう見方をしなければ、普通のオフィス立地としては地味な場所、このプロジェクトは神田の小さなオフィスビルを、いかに魅力的にリノベーションするか、というものだ。
一棟まるごと、というわけではない。1階と、7-8階。中間階にはまだテナントが入っている。7階に上がってみると、抜けの良い風景と柔らかな光が差している。しかし、まあ普通のビルだ。ワンフロアの広さは70平米(21坪)、アットホームな雰囲気を保つには手頃な広さ。この雰囲気は大切にしたい。さて、どんな空間にするか。
8階の窓からは、抜けの良い風景が眺められる。
Office as Livingroom/オフィス・アズ・リビングルーム。
思いついたのは、このコンセプト。リビングルームのような空気感を持ったオフィス。
この発想には伏線がある。それは昨年、Open A が設計した運河沿いの倉庫を改造したオフィスだ。静岡を拠点に靴の製造及び輸入を行う「シードコーポレーション」の企業コンセプトは「身体に気持ちよく、環境にやさしい靴」。それをオフィスでも表現してみよう、ということでできたのがこんな空間。
ガラスキューブがゴロンと置かれ、周りにデスクやミーティングテーブルが散在する。机や椅子の高さやかたちがさまざまなので、人々は時に寝ころびながら、時に集中して仕事をすることができる。とにかく、「気持ちよく仕事をすること」を追求してみた。
そもそもオフィスって何だろう?
そこは新しい発想や物事を生み出す場であり、僕たちが人生のかなりの時間を過ごす生活の場でもある。だとするならば、そこは心地良く、創造性に溢れていなければならない。
かつては、なんとなくデスクに座っていることが働く風景だったかもしれない。しかし、多様化する職種、流動化する勤務形態、そして働くことの目的自体の変化......。それらは働き方を変化させている。働き方が変われば、その環境も変わるはず。しかしオフィスは単調な四角い箱だった。
この淡路町にリビングのようなオフィス空間をつくってみようと考えた。